なぜ三菱アウトランダーPHEVは燃えたのか
「窓際族も暇じゃない」が口癖のru_acです。
今回も電動車燃えたシリーズです。(下書きしてたけど全然書き進めてなかった)
電動車の話をするとみんなこれを気にするから(あと私がそんな評価いっぱいやって来たから)。たしかにまぁ、身の回りで車が燃えたなんて聞いたことないからわかるけどねぇ…(前の会社ではたまーにあった)
では今回は、アウトランダーPHEVが燃えた事例を紹介します。初の国産車です。
「え、アウトランダーPHEVって燃えたの?初耳なんだけど?」
という人が多いと思います。そして、これはセルとは無関係です(アウトランダーPHEVはセルの製造不良で回収沙汰にはなりました)
まず、この映像をご覧下さい。
前のアウトランダーPHEVですね。でも、防水構造は現行も変わってないはずです。(雑誌とかで見る写真でしか確認してませんが)
なんでか国内では全然報じられてないですが燃えてます。でもまぁ、これは燃えても仕方ないよねって奴です。
「当然だよな。リチウムイオン電池はリチウム含んでるもんな」
…ちーがーうーだーろー!!(古い)
違います。全然違います。
今回はなぜアウトランダーPHEVが燃えたのか考察していきたいと思います。
なお、残念ながら私は三菱自動車さん出身でもなければこの件の答えを知っているわけではないので考察です。お金なくてネットの情報収集だけでベンチマークとかリサーチ業務させられてたから仕方ないね。
まず、リチウムイオン電池とはなにか。
リチウムイオンを使う電池。以上。
で、終わると本当に終わってしまいますが、リチウムイオン電池はいわゆるロッキングチェア型と呼ばれるリチウムイオン電池です。
なにがロッキングチェアなのかといえば、リチウムイオンが充電時は負極に、放電時は正極に移動するさまをロッキングチェアと呼んでいるわけです。
ここで大事なのはリチウムが金属としてそれ自体の酸化還元反応しているわけではないと言うことです。(少なくとも主反応として)
先程、「リチウムだから水に触れると危ない」というのを否定したのはこれです。別にリチウムイオン電池内部のLiは既にイオンになっており、水と反応する余地はありません。(劣化して析出してるやつはいるけど)
ではなぜリチウムイオン電池を水に沈めると燃えるのか。それは水を電気分解するからです。
電気分解って言ってるのは、おそらく皆さんが小中学校で習ったあれを思い出していただくためです。
これです。
お分かりの人もいると思いますが、このアウトランダー、海水に沈んでます。真水なら燃えなかった(壊れるかもしれませんけど)と思いますが、電気伝導率の高い海水につけることで正極端子-海水-負極端子の回路が形成され電荷が移動します。真水だと電気抵抗が高すぎて電流が流れないんですが、海水だと流れてくれるんですよね。
そうするとどうなるか。水素が発生します。水中で水素が発生しただけならなんの問題もないんですよ。
実際このアウトランダーも、水中で爆発したり引き上げた直後に爆発したりはしてません。
水中で爆発しないのは酸素がなかったから(電気分解で酸素が出ると思うかもしれないですが、バスバーとかの金属から先に電荷が取られていきます。根拠?実験したからだよ)、そして引き上げ直後になんともなかったのはセルが冷めていて点火する火種がなかったからです。(これも経験則です。だいたい直後は冷えているので何ともないですが、反応は進行していて気づいたら火が出ます)
引き上げられて冷却が停止して、セルが熱暴走を再開したか(海水経由のルートが残ってるから)、海水が抜けてきてスパークが飛んだか(これも実験してやったことありますので…)で水素に引火したんだと思います。
一気に吹っ飛ばなかったのは海中である程度水素を放出してたか、構造故にガスが滞留しなかったかだと思います。
さて、ここで、
「アウトランダーはガソリンも積んでるんだからガソリンが燃えたかもしれないだろ」
という意見もあると思います。確かにガソリン積んでますからね。そりゃいい燃料になります。
ですが映像を見ていただくと分かりますが、かなり燃え方が穏やかです。
セルの熱暴走や水素に引火したときは瞬間的に火柱が上がりますが、それはセル内に収められていたガスが噴出したり空気中のガスに一気に引火するためであって、その後はだいたい樹脂部品やハーネスの被覆に燃え移って延焼します。
一方、液体のガソリンの燃え方は爆発に近いものです。しかも継続します。(燃えるのは空気に触れた部分だけだから)
ましてや燃料タンクに引火すれば一気に車体を覆うレベルで炎が上がります。何度かガソリンで燃やす試験はさせられましたが、さすがに防爆ガラス越しでもあれは怖いですね。まぁ、燃料タンクは熱せられても中のガソリンの熱容量がまぁまぁあるので簡単に燃えたりしないんですけど。
「冠水路とか走れるんだから電池パックは防水なんじゃね?」
と思われた方は鋭いです。
当然ですが、冠水路程度では水は浸入しません。アッパーケースとロアケースはシーリングされてますから。
じゃあなんで燃えたかといえばアウトランダーPHEVの防水構造はあくまで外部からのものであって内部からの浸水には決して強くないからです。
サービスプラグへのアクセス部分を見てもらえばわかりますが、「フタ」が電池パックにはついていません。
どうしているかというと、車両側でフタしてるわけです。写真がないのでご説明が難しいですが、鉄板にゴムパッキンみたいなのがついていて、それをボルト留めしてあると思ってください。(悪いな、三菱自動車、ティアダウンさせてもらった)
何しろそういう構造なので、室内で飲み物こぼした程度では液体が浸入することはないですが、水没して車内まで水が入ったらもう無理です。耐えられません。
普通は廃車なんでそこまで考えてないし試験も大変だから三菱自動車さんもできなかったんだと思います。(私もこの試験提案したら止められたしね)
ということで今回はこのくらいでしょうか。
何か思い出したら追記します。もう完成車メーカーから離れてだいぶたったので記憶が薄れてますが。